世話人雑記
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山川 宏(「アクション“介護と地域”」世話人)=事業家時代から何度もフランスを行き来しているフランス事情通
日本の農業問題を考えてみた
▼国に殺される農業と農家
先日、明大のOB・OGが集まる「明大土曜会」に、他大学OBながらお邪魔した。明大OBで、山形で農業を営む菅野芳秀氏から、現在の農業の実態について、大変重要でシリアスな発言、問題提起があった。要約するとーー。
・1947年の農地解放によって500万人に達した自作農農家が激減。2020年175万人、そして現在は97万人、このうち4万人以上は「団体経営」で、3万人以上は「法人経営」。
・農業が市場経済に委ねられ、米価はコストを下回り、政府は「離農手当」まで出して農家を減らし、大企業、法人の農業ビジネスに、さらに農薬、化学肥料漬けのケミカル農業に変えようとしている。
・減反は耕作面積の40%におよび、農家の所得は2019年に一時間あたり208円だったのが2020年には時給10円になった。まさに「米を作っていたら米が食えない」現状だ。
・昨年、モミ乾燥機が壊れた。夫婦の年金と貯金を切り崩してなんとか170万円を工面して買った。後継者の息子は「今度、トラクターが壊れたら農業を辞めていいか」と言う。近隣でも機械が壊れた時が「農じまい」というのが増えている。
・昔は「農家は生かさず、殺さず」だったが、今は「生かすな、殺せ」だ。
そんな話を聞いた週明けの朝日新聞に「米がない!」の記事が出ていた。スーパーにも米屋にも米が品薄で、1日1人10キロまでに購入制限しているという。さらに5キロ1,480円を千円値上げして2,480円で売らねばならないほど仕入れコストが上がったという。米一俵は60キロ。その60キロの仕入れ価格が22,000円で、これは昨年より8,500円高いそうだ。それでも、インバウンド含め需要が増加、供給が追いつかない。菅野氏の言う通り、無謀な政策のツケが回ってきたということである。
高度成長期からずっと農地を工業用地に転用、それは年間1,5万㌶に及び、荒廃地化も同様1,5万㌶に及ぶ。さらに1995年の「食糧管理法」廃止後、「自由化」の名の下に、「古い農業は効率が悪い」とか、「競争によって強い農業を」という新自由主義的な掛け声とともに「間違った」政策が進められてきた。僕は、あの竹中平蔵が「競争力をつけるには、競争させることです」と繰り返していたのを覚えている。とんでもないことである。
▼EUの農業政策
日本農業の現状を、僕が仕事と遊びでよく行くEU 、フランスと比べると、どんなに酷い政策であるかよくわかる。僕はなんでもEU・フランスの礼賛者ではではないが、農業については学ぶべきことが多い。
EUでは、基本的に、農家の収入保障を直接支払いによって行う。農作物の最低価格、価格維持メカニズム、域外関税と輸入制限などとともに「共通農業政策」CAP(Common Agricultural Policy)に含まれている。農業は環境保護政策もあるので、「共通遵守事項」がある。
それを満たす農家に直接支払われる補助金は昨年3,870憶ユーロ(約62兆円)、EU予算全体の40%近い。なお、そのうち94憶ユーロはフランスに行く。これは農家一戸当たり24,000ユーロ(約390万円)に当たる。そうして、一戸当たりの平均年間所得が直近2022年には56,014ユーロ(約921万円)となる。つまり補助金が42%を占めているわけだ。
さらにこれは「平均」であって、同年、年間所得9万ユーロ(約1450万円)を超える農家が25%、15万ユーロ(約2400万円)を超える農家は10%ある。日本では補助金が「限定的に出る」ところでも10〜15%。しかも母数(金額)も少ないわけで、その違いに驚く。
フランスはEU最大の農業大国である。国土の57%を農地が占め、EU全体の農産物の4分の1を支えている。食料自給率はカロリーベースで130%に及ぶ。(日本は38%)
かつてド・ゴールは「食料を自給出来ない国は独立国ではない」とまで言い切った。農業、農民を大切にすることもまたフランスの国是と言っていいのかもしれない。
もちろんこの補助金は税金から出ている。だが、フランス市民はそれを当然と考え、不満が出た話など聞いたことがない。
フランス諸都市を旅行すると気づかされるのは、とにかく高級レストランはもちろん「外食」の料金が高いことだ。ランチ一回「ワンコイン」というわけにはいかない。旅行者には痛手だが、現地の人たちは当然と思っている。調理を含め、サービスなどに従事する人たち、働く人たちの尊厳ある生活を守るために必要な費用と考えているからだ。それはまわりまわって自分の生活にもつながる。逆に、市場、スーパーマーケットなどで食材を買って自炊すれば、かなり安くて良い食事ができる。価格が政策的に抑えられているからだ。これがあるから、農民への「補助金」に文句など出ないわけであろう。もちろん、政治家も「ばら撒き」だなどとは決して言わない。
▼日本の「食糧安保」のデタラメ
最近、岸田政府は「食料安全保障」とか、「食料自給率を」とか、盛んに語られるようになった。何を今さらだ。一貫した「政策」も「目標」もない。以前は2010年までに、自給率を45%にする、と言い、すぐ修正して2020年までに50%にすると。しかし、現状は2023年でも38%である。また、「新規就農者」を増やそうと突然言い出し、「支援システム」と称して。年間150万円、それも75万ずつ2回に分けて「補助金」を出すことにしたそうだ。この程度で新規就農者が増えるはずもないが、なんと、「農業法人への就職」を斡旋して補助金を出すとも言っている。食えない農民はまとまって休耕田を耕せという乱暴な話だ。また、食料自給率を「カロリーベースではなく金額ベース」にしようなどと言う者もいる。とんでもない。金額が高ければカロリーが高いわけではない。高級メロンをいざというとき国民が食えるか!
▼日本農業のこれからを考えた
日本とフランスを比較して、僕なりに考えたことを書く。
まずは何より先に「直接の」補助金を増やすことだ。農家の労働、生産、それに見合った収入、尊厳ある生活を保障すること。あたりまえじゃないか、と僕は思う。大事なことは、「安い」農作物の生産を農家に押し付けてはならないということだ。またフランス話で恐縮だが、ワイン、チーズなどに標記されるAOC(原産地統制表示)が日本でもあればいいと思う。農家には高付加価値の高い作物を尊厳を持って作ってもらう。
とにかく国内生産を優先、輸入農産物を減らすこと、関税をかけるばかりが能じゃない、遺伝子組み換え、化学肥料などを検査、安全性基準を厳格にして、基準を満たさない農産物は排除していくことだ。
そして何より僕たちが米を食べることだ。60年前の1962年の一人当たりの米消費量は年間118キロ、つまり米俵2俵分。そして現在は50キロ、米俵1俵にも満たない。代わって食べているのが輸入の小麦を原料としたパンやパスタだ。皆さんもおそらく3食のうち2食はご飯以外だと思う。米のままでなくても、日本酒にもなるし、米粉はパスタなど麺類にもなる。ブームのグルテンフリーというやつだ。さらに学校給食もパンではなくごはんに切り替えればいい。
安全保障とはミサイルや武器を作ったり、爆買いすることではない。国民が安心して食べ物を確保し、国内の農家・農業が安定することが第一だ。農業で頑張っている菅野さんの話を聞きながら、そんなことを考えた。
2024年8月10日
山川 宏(「アクション“介護と地域”」世話人)=事業家時代から何度もフランスを行き来しているフランス事情通
フランス国民議会選挙に思う「ハートは左、財布は右」
かねてから、フランス人はその気質を評して「ハートは左、財布は右」とよく言われる。基本、左翼的なのだが、コトが自分自身の財産、生活、諸権利に及ぶと非常に保守的になる、という意味である。僕は現地で生活したことはないが、何度もの渡仏、仕事、プライベートともフランス人との付き合いがあり、そのあたりは実感している。
今回の一回目の選挙結果が出たとき、すぐにこれを思った。「極右」RNは厳しい移民規制政策を打ち出していた。多くのフランス人がこれに反応した。よくある報道ではRNの「移民たちが『仕事』を奪っている」というプロパガンダが効いたとされているが、フランスの市民、労働者はそれほど愚かではない。やはり、ここ数年にわたるイスラム原理主義者による無差別殺人、テロの恐怖が高まったことが背景にある。何しろ三桁に及ぶ一般市民が無差別に殺されたのだ。恐怖心がないと考える方がおかしい。この恐怖は必然的にイスラム系住民、移民に対する警戒心となる。その多くは温和なイスラム教徒であろうが、その中に「過激派」あるいは原理主義者、「テロリスト」がいても区別はつかないのだ。
つまり表面では排外主義を批判しつつ、「こっそりと」移民規制を叫ぶRNに投票した者が実は多かったのではないか、と考えられる。表立ってそれを言うわけにはいかない。「ハートは左」のフランス人にあって「ラシスト(人種差別主義者)」と呼ばれることは恥だからだ。だが「財布は右」と言われる通り。自分の生活、まして生命が脅かされるとなれば話は別、ということだろう。この恐怖心とマクロンへの失望、反撥があいまってRNの躍進という第一回の選挙結果になったと思う。
だが、RNは、ソフト路線、「脱悪魔化」を掲げつつ、マリーヌやバルデラがしばしば「失言」をしては本音が出てしまうように、その「極右」としての本質は変わっていない。「ハートは左」のフランス人は彼らに強い影響力、まして政権を渡す気などない。さらに、ここが日本と違うところだが、反RNの「人民戦線」というしっかりした「受け皿」となる共闘が成立した。これらが二回目の選挙結果に帰結したのだと思う。
フランスでは一回目の選挙で候補者や政党が過半数に至らず、二回目の「決戦投票」に持ち込まれることはよくある。ここで、フランス政治に通じた学者らがよく言うように、「一回目は感情、二回目は理性」という結果になるわけだ。
いずれにせよ、今後、「人民戦線」から首相が出ることになっても、大統領の権限が強力なフランスである。強烈な変化が起こることは考えにくい。が、マクロンの「燃料税」も「年金改革」もフランス人はデモ、ストライキを駆使して闘い、潰した。
あくまでも「ハートは左」なのである。
勝手な感想を書いてしまったが、それほど「外して」はいないつもりである。
2024年7月13日